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trick or treat? -reiji- 1
trick or treat? -reiji- 1





 友達に誘われたハロウインパーティに行って来るとつぼみが告げたのは、今朝の事だ。
 夜、一緒にいてやれない事の方が多く、多分今日も遅くなるだろう俺には反対できる理由は見つからなかった。
 あまり遅くなるなよ、と忠告だけして、やむなくつぼみを見送った。

 その日、俺が帰って来たのは午後9時過ぎだ。
 普段の帰宅時間から比較すると、かなり早かった。
 やはり気になって、そこそこで切り上げて、わざと早めに帰って来たのだ。

 しかし、つぼみの姿はなく、予測通りまだ帰って来てなかった。
 早く帰って来いと釘を刺してはいたが、それを素直に受け取って、9時前に帰宅しているとは思ってなかった。
 思ってなかったし、その気持ちも分かるのだが、分かっていても面白くなかった。

 あいつに限って身の危険は、ほとんどないだろう。どういう場合においても、つぼみにその気さえなければ。
 いざと言う時は『力』を使っても良いとも言ってある。

 だから、余程の事がない限り大丈夫だ。
 ・・・大丈夫だと分かっているのだが、理性とは別の感情から沸いてくるイラッと感がぬぐえない。
 大丈夫だと分かっているのに、俺は何をこんなにイライラしている。

 嫉妬か。独占欲か。
 誰に対する嫉妬で、何に対する独占欲だ?
 この先つぼみに惚れる、まだ見ぬ誰かか?
 確かにそれもあるかもしれないが、1番はそれじゃない。

 それを認めるのが腹立たしく、認めたくない。
 だから、こんなにイライラするのだ。

 時計を見ると、9時25分。
 まだ帰って来てから10分しか経っていなかったが、俺は再びアパートを出て、車を出した。
 多分、文句を言うか、からかいの言葉を投げつけてくるか、どっちかだろうが構わなかった。
 こんなところでイライラ待ちどおしているよりは、ずっとマシだ。

 つぼみを誘ったのはアンナだと言っていたが、アンナのアパートに、つぼみたちはいなかった。
 主催者はアンナじゃないらしい。アンナはドイツの留学生なので、学生寮のアパートにいる。
 同じアパートに住んでいる学生に尋ねて、そこに向かった。


「あれ?あなた・・・」

 パーティは野外でしているらしく、アパートの前の庭で学生が色んな格好をして、各々楽しんでいるようだった。
 その中にいる女の子の1人が俺の姿に気づいて声をかけてきた。
 どこかで見た事があるような気がする。多分、つぼみの友達の1人だろう。

「つぼみのお兄さん?」
「うん。まあ、そんなとこ」

 俺はにっこり笑って、そう答えた。色々面倒なので、表向きはそういう事にしている事が多い。

「つぼみを迎えに来たの?」
「うん。そうなんだけど、つぼみはどこ?」
「ちょっと待ってて。今、呼んでくる。つぼみ~!!お兄さんが迎えに来たわよ~!!」

 そう言って走り去った先に、つぼみがいた。ちょっと驚いた。
 ハロウインパーティなんだから仮装していて当たり前なんだけれど、つぼみは『不思議の国のアリス』の格好をしていた。
 俺は、つぼみのその格好を見て、ちょっと吹いた。

 こっちの学生は、やたらとでかいが、ここにいる学生は高校生や大学生が多いみたいだ。
 つぼみは、どこに行っても何故かそこのボス的存在になりやすいが、ここでは年上にもやたらと気に入られていた。

 日本でも比較的小さい部類に入るつぼみは完全に子供に見えた。
 誰かに着せられたのか、自分で買ってきたのか、その『アリス』の格好は妙にこの景色にマッチしていた。

 さっきの女の子に手を引っ張られて、つぼみが近づいて来る。
 
「れい」

 つぼみが俺の名前を呼んで、柔らかく笑った。
 それは、かなり意外な表情だったので驚いたが、何だか様子が変だ。
 つぼみは、ゆっくり俺に近づいてきて、倒れるように俺に抱きついた。
 ・・・と言うより倒れそうになったつぼみを俺が支えたと言った方が近い。

「つぼみ、かなり飲んだみたいで、ちょっと酔っ払っちゃってるみたいなの」
「こいつ、酒飲んだのか!?」

 思わず叫んだ。来て正解だった。ちょっとどころか、これが。今もう、すでにまともに立てていないくらいだ。
 誰が飲ませたのか問い詰めたかったが、今は一刻も早くこいつをアパートに連れ帰る事の方が先決だ。

「おい、つぼみ。立てるか?」

 つぼみは俺と目が合うと、さっきと同じ、ふわっとしたような笑顔で笑いかけた。
 こんな風に笑うつぼみを普段余り見た事がない。滅多に見せない極上の笑みだ。
 『アリス』のコスプレがちょっと俺には滑稽に映るが、こんな顔で笑うつぼみが、他の男たちにどんな風に映っているのか想像すると腹のあたりにどす黒い何かが湧き出るような錯覚に陥った。

 この馬鹿!!

 今すぐ怒鳴りつけてやりたい気持ちだったが、それを押さえてつぼみをここまで連れて来てくれた女の子に笑いかけて礼を言った。
 一秒でも早く、この場を立ち去りたかった。
 つぼみのもどかしい足取りに焦れて、その歩調に合わせるのが面倒くさくなり、つぼみを抱きかかえた。

「れ~い」

 酔っ払い口調でつぼみが再び俺の名前を呼んで、抱きついてきた。
 普段だったら考えられないようなこと。
 しかも、あろうことか公衆の面前で、そのまま俺にキスしてきた。

 勿論、触れるだけのキスだけれど、俺は不覚にも一瞬だけ固まった。
 つぼみの方からキスをしてくるなんて、初めてだったから。

 この程度のキスはアメリカでは普通だ。こっちでは兄妹でも場合によってはする。
 周囲は本当の兄妹だと思っている連中が多かったのか、周囲は、すぐにほほえましげな顔をして俺たちを見送った。

 ほんの一瞬の敵意を除けば。

 俺は少し振り返ったが、その中にいた誰による視線のものかは分からなかった。






(あとがき)
-tsubomi-編の対作品です。すみませんが、こちらもちょっと続きます。2は近いうちにUPできると思います。
私の書く零視点は暗いものが多いのですが、-tsubomi-と対作品的な感じにしているのに引きずられたのか、ややライトめですね。(笑)
http://jujutukiko.blog.so-net.ne.jp/2009-10-11-1

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